忘れられないコロッケ

私の師となったA君と出会う前の私はどんなふうに子ども達と接していたのだろうか。
このことが気になり始めました。A君との出会いは私を確かに変えました。子どもの気持ちをキチンと受けとめたいと思って、どんな子どもとでも真剣に向き合う事ができるようになりました。
どんな子どもと会ってきたっけなぁ・・・・こんな気持ちでいたところ、今週の月曜日午後10時からNHKで不登校に関する番組がありました。この番組をきっかけに思い出したことが・・・

私には忘れられない不登校の男子中学2年生がいました。
彼は何か事件を起こして私と関わったのですが、事件の内容は覚えていません。
そんなことはどうでもいいのです。
私は、不登校の彼が引きこもらないようにするために何かできないか、と考えたのです。
彼は家族以外の人とは交流しませんでしたが、なぜか私とは嫌がらずに話しをしてくれました。
彼と「毎週1回は会う」約束をしました。
“火曜日、午前10時、私が家庭訪問する”
このことを淡々と続けました。回数を重ねる毎に、彼が私の訪問を心待ちにしていることが分かりました。
私はとっても嬉しくて、火曜日を楽しみにしていました。
ある日のことでした。仕事の都合で訪問ができなかったのです。「待っているだろうな・・・」と分かっていながら連絡をしなかったのです。
翌週の火曜日に訪問しました。彼は自室に籠もり、出てきませんでした。約束を守らなかった私に対する抗議だと受けとめました。暫く、お母さんとお茶を飲んで待ってみたのですが、姿を見せないので、私が彼の部屋の前へ行き
「ごめんね。昨日は用事があって来れなかった。」
と、用事の内容を説明しました。
「君が怒るのは当然。もし許してくれるのなら階下へ降りてきて欲しい。階下で待っているね」
とドア越しに声をかけて階下へ降りました。20分ほどしたら彼が私の前に現れました。
「あ~、よかった!ありがとね。又、来ることができないことがあるかもしれんけど、その時は必ず連絡するね。ごめん!」
「・・・・うん・・・・・」

彼はいつも言葉が少ないのですが、同行していた後輩が好きな音楽のことを話したことを覚えていて、録音をしておいてくれたり、お母さんとコロッケを作って待っていてくれたりしました。あのコロッケは美味しかった。揚げたてをフウフウ言いながらいっぱい食べました。
彼が自ら話し出すことはなかったのですが、人の話を聞いてニヤニヤしたり、「美味しい、美味しい」とコロッケを頬張る私を見てフフと笑ったり・・・・和やかな時間でした。
外出をさせたくてドライブに誘い出したこともありました。私の大好きな景観を楽しめるところへ連れて行ったり・・・
あっ、そうそう、外へ出たついでにと欲張って学校へ立ち寄ったことがありました。
校門を車で通過した時に彼の顔は紅潮し、体がカチンカチンになり、呼吸を止めたことを昨日のように覚えています。
あの頃の私はその緊張を感ずることはできましたが、彼に心情を語らせることはできませんでした。
校長室で何人かの先生と会ったのですが、その時一人の先生が
「相撲取りのようだから・・・」
と彼の容姿に関する発言があり、欲張って立ち寄ったことを後悔し、彼に詫びました。

彼とのことで反省点はいっぱいあったのですが、一つ私にとって大きな収穫は
“不登校の子どもに余計なことは言わず、只淡々と会い続ける事の大切さ”
を体感したことでした。

先日のテレビ番組の中で、中学校の先生が自転車に乗って家庭訪問する姿を見た時、
「先生、会えなくてもいいから訪問を止めないで、ドア越しでいいから声をかけて」
と、祈るような気持ちで観ていました。
人の心のドアは人の心でしか開かないような気がします。

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